前立腺がんで余命宣告を受けた父が、入院中に何度も奇跡を見せてくれました。
その中の一つを紹介しますね。
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自宅で夕飯を食べた後、父の入院先の病院から連絡が来ました。
「血圧が低く、非常に危険な状態です」
連絡を受けてすぐに、母を迎えに行き、主人や娘と一緒に病院へ向かいました。
病室へ行くと、看護師さんに廊下へ出るように促されました。
「電話をした後、血圧が安定したので、今は落ち着いていらっしゃいます」
これを聞いてホッとした私。
でもすぐに看護師さんが
「今後もこのような危険な状態になる場合があると思います。
その時は、個室へ移動させてもらって良いですか?」と
「血圧を上げるため、昇圧剤を投与させてもらって良いですか?」と聞かれました。
個室へ移動する目安として、血圧が50を切った時だと言われました。
私は即答はせず、病室へ入り父の様子を見ました。
父の側へ寄ると、顔の血色がよく、私の顔を見て「大丈夫だから」と笑っていました。
再び廊下へ出て、主人と娘と弟と話し合いました。
病院から危篤の連絡を受けて、もう駄目かもしれないと弱気になった私。
それに対して、冷静だった娘が言いました。
「大丈夫だよ」
これを聞いて、気づきました。
危険な状態になって個室に移すと、父自身が「もう駄目なんだ」と思うのでは?と。
「絶対に家に帰る」と思っている父。
「絶対に家に連れて帰る」と思っている私達家族。
一時、危篤状態になったことで、この事を忘れていた私でした。
でも、父と娘の「大丈夫」と言う言葉で我に返ることが出来たのです。
そして看護師さんにこう聞きました。
「血圧が50を切っても、このまま大部屋に居させてもらう事は出来ますか?」
こんな風な決断をする家族は珍しいらしく、看護師さんは返答に困った様子でした。
なので更にこう言いました。
「個室へ移されると、父の生きる気力がなくなるので」
これを聞いた看護師さんは、ようやく私達家族の気持ちに気づいてくれて、了承して下さったのでした。
また、昇圧剤の投与について、父の身体の負担を質問しました。
すると、元々血圧が高く、高血圧用の薬を飲んでいる父に昇圧剤を投与すると、低かった血圧はすぐに戻るけど、上がりすぎてしまう場合もある、ということをこっそり教えて下さいました。
他の高血圧の患者さんで、血圧低下の際に昇圧剤を投与したら、血圧が上がりすぎて、御本人さんはとても苦しそうにされていたということも教えて下さいました。
これを聞いて、父に苦しい思いをさせたくなかったので、駄目なら駄目で仕方がないと覚悟を決めて、昇圧剤の投与も拒否したのでした。
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この後、何度も危篤状態になった父でしたが、ベッドの足元を高くして様子を見るしかなかったのですが、その度に自然に回復したのでした。